「花畑(細胞)に水(酸素と栄養)を」の考え方でいくと、
心臓(ポンプ)、血液(水)、血管(ホース)、肺(フィルタ)があり、これらが循環を構成している。
①心臓(ポンプ):平均血圧、心拍出量、心拍数、心調律
※平均血圧=末梢血管抵抗×心拍出量
※心拍出量=心収縮力×前負荷×心拍数
②血液(水):前負荷、中心静脈圧、肺動脈楔入圧、左房圧、血中ヘモグロビン濃度、尿量
③血管(ホース):末梢温、後負荷、血管抵抗
④肺(フィルタ):気道内圧、無気肺、動脈血酸素飽和度、肺動脈圧、中心静脈圧、左房圧、肺動脈楔入圧、肺動脈血管抵抗
1.心臓(ポンプ)
a心収縮力
・心エコーや心臓カテーテル検査などで評価するとともに、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁の状態はどうか評価する
左心系:大動脈弁、僧帽弁 右心系:肺動脈弁、三尖弁
・生理学的に重要なものは、フランクスターリングの関係であり、正常な心臓では、輸液をするとその分、心収縮力が増大するという関係のことで、正常でない心臓はその曲線の勾配が小さくなる。つまり、前負荷が増大する。そして、重度に心収縮力が低下している場合は、拡張終期圧が過剰に上がると心収縮力は下がる。
b心調律(リズム)
・特に心房細動で、心房細動だと30%以上も心拍出量が低下する。それにプラスして頻脈になるとそれだけで循環が成り立たなくなる場合もある。そのため、心房細動での頻脈になることは避けるように管理する必要がある。
c心拍数
・心拍数が増加しすぎると拡張期の時間が短くなり、心拍出量は減少する。心拍数90前後が心拍出量を最も多くする値といわれている。
・しかし目標とする心拍数は個々の症例で異なることは理解しておく必要がある。
2.血液(水)
a前負荷
・定義は、静止している筋肉にかかる、筋肉を新たな長さまで伸ばすための負荷であり、左房圧、中心静脈圧を用いて評価する。
b血中ヘモグロビン濃度
・血中ヘモグロビン濃度が低いと混合静脈血酸素飽和度は下がる。ヘモグロビンは酸素を各細胞に運ぶトラックの役割を担っているため、重度の貧血は許容できない。
c尿量
・水分バランスの管理と循環動態の評価という二つの側面から、尿量は重要である。血液は腎臓に入り、糸球体を通過する際に濾過されて尿となる。つまり生理学的には60mmHg以下では尿は産生されないことになる。そのため尿量は循環管理において重要な意味をもつ。
3.血管(ホース)
a後負荷
・後負荷は心室壁にかかる収縮期のストレスであり、後負荷が上昇すると、1回拍出量が減少する。
・後負荷を規定する因子には血管の硬さ・軟らかさと血管抵抗がある。高齢者で動脈硬化が進んでいる場合は非常に硬いし、若年者では軟らかい。
b末梢温
・末梢血管が収縮すると末梢循環不全に陥るため、末梢循環を適切に管理することも重要である。
4.肺(フィルタ)
・症例が重症であればあるほど、肺の状態が全身の循環動態に大きく影響してくる。
・右のポンプと左のポンプの間のフィルタの通りが非常に悪かったらどうなるか、左のポンプの前には水が少なく、花畑には十分な水を与えることができない。そしてフィルタの前に水があふれ、かつ右のポンプの後ろにも水が溢れる状態になる。
・肺の状態が悪いことで心拍出量が低下し、右心の後方臓器にうっ血を呈する状態を、右心不全という。気道内圧が高いとか、無気肺が疑われる場合はフィルタが目詰まりしている可能性が高い。生理学的には低酸素血症という。つまり、換気が不十分などの理由で無気肺が形成されると、その部分で換気が行われず、無気肺の周囲の肺動脈が収縮し血流を制限する。そのためにフィルタが目詰まりする。
・必要十分な換気量と適切な呼気終末陽圧、また気管内吸引などで無気肺を予防することが大事である。
5.細胞・組織(花畑)
・酸素消費量=酸素必要量とするためには、酸素供給を十分に行うことと、酸素消費量を減らすことであり、高体温や低体温でシバリングなどによる熱産生では酸素必要量が非常に増加するため、増加しないように管理を行うことが重要である。
A心臓モニタリングについて
肺動脈カテーテル(PAC)について
バルーンを膨らませた状態で肺動脈末梢に楔入した圧、つまり肺動脈楔入圧(PAWP)は左房圧を反映する。しかし、PAWPはバルーンを膨らませた状態でないと測定できないため、連続的モニタリングは不可能である。そのため、肺動脈拡張期末期圧をPAWPの数値の代用としてその変化をモニターする。
スワンガンツカテーテル
スワンガンツカテーテルの定義
スワンガンツ(Swan-Ganz)カテーテルは、静脈から挿入して右心カテーテル検査を行うために考案・開発され、臨床応用された多目的カテーテルである。
カテーテルのしくみ
先端にバルーンが付いているため、血流に乗せて右心房、右心室を経由して肺動脈まで安全にカテーテルを進めることができるしくみになっている。
カテーテルの特色
スワンガンツカテーテルは、以下の2つの血行動態指標を測定できる点に特色がある。
①肺動脈圧
スワンガンツカテーテル先端のバルーンを拡張して肺動脈内を末梢に進めていくと、最終的に肺動脈の小さな枝を拡張したバルーンで閉塞することになり、カテーテルの先端圧は左心系の肺静脈圧を反映する。このときの圧を肺動脈楔入圧(pulmonary artery wedge pressure:PAWP)という。左室拡張末期圧は左室機能が低下すると上昇する。つまり、右心カテーテルを用いて肺動脈楔入圧いわゆるPA圧を測定することによって、左室機能をリアルタイムに評価することができる。
②心拍出量
スワンガンツカテーテルは、先端にサーミスター温度センサーを装備している。右房に位置する先端から30cmの部位に冷水の注入孔が開いており、ここから注入された一定量の冷水が右房・右室で混和され、還流量(心拍出量)に応じた温度変化として感知されるようになっている。つまり、還流量が多ければ温度変化が少なく、還流量が少なければ温度変化が大きくなる原理を用いて、心拍出量(cardiac output:CO)が算出される。
スワンガンツカテーテルの利点は、肺動脈楔入圧の上昇(18mmHg以上)をうっ血の指標、心係数の低下(2.2L/分/m2)を心拍出量低下(ポンプ機能障害)の指標として、心不全症例や心臓手術後の症例における連続的な血行動態評価とすみやかな治療法の決定を可能にする点であろう。
B経食道心エコーモニタリング
経食道心エコー(TEE)検査は、胃カメラのように口から食道に直径約1cmの超音波内視鏡を入れ、心臓を食道から観察する検査で、食道は心臓のすぐ後ろにあるため、心臓や大血管の鮮明な画像が得られる。経胸壁心エコー検査で描出困難な場合や心臓の奥にあるものを観察するのに有用な検査である。
C循環管理における臓器血流
1.脳血流と周術期管理
a脳血流の自動調節能
・一般的には平均血圧が70〜150mmHgの範囲にあれば脳血流は一定に保たれる。脳灌流圧は、頭蓋内圧が正常であれば50〜60mmHgとなるが、高血圧の合併や糖尿病、脳梗塞、脳出血の急性期にはこの自動調節能は障害されるため、過度の血圧低下には注意を要する。
高度に頭蓋内圧が亢進すると脈圧の増大がみられる。脳灌流圧が低下して脳血流量が減少し、脳虚血を引き起こすが、生体は脳血流量を維持するために、血圧を上昇させて脳に血液を送り込もうとする。収縮期血圧が上昇する一方で、拡張期血圧は低下するため。
・頭蓋内圧亢進の兆候があれば、外科的開頭術のほか、過換気や薬物投与(マンニトール、バルビツール酸系)を行う。
b麻酔薬の脳血流に対する影響
・一般的には静脈麻酔薬は脳血流を減少させ、吸入麻酔薬は増加させるといわれている。したがって、頭蓋内圧の亢進している患者には静脈麻酔薬のほうが使いやすいといえる。
2.腎血流と周術期管理
a腎血流の自動調節能
腎動脈圧が80〜180mmHgの間で腎血流量、糸球体濾過率が一定に保たれる。
b麻酔薬と腎臓
吸入麻酔薬(特にセボフルラン)は、コンパウンドAという代謝産物が腎毒性をもつといわれていたが、腎機能の低下につながることはないことが確認された。むしろ腎保護があるとされている。
3.肝血流と周術期管理
a腎血流の自動調節能
肝血流を増加する薬物としてはプロスタグランジンがある。ドパミンは根拠がはっきりしない。
b麻酔薬と腎臓
静脈麻酔薬は肝血流に有意な影響は与えない。
吸入麻酔薬は門脈血流を減少させるが、肝動脈血流は増加するといわれている。いずれにせよ臨床上あまり影響はない。
4.冠血流と周術期管理
a冠血流の自動調節能
50〜150mmHgの間で一定に保たれる。
しかし、冠動脈狭窄病変があると、血流を増加させる能力は低下しているため、酸素需要が増加したときは虚血を呈することがある。
b冠血流増加と心筋保護(抗狭心症薬)
・硝酸薬:血管平滑筋弛緩作用があり、静脈系の拡張は、心臓に戻る血液量(静脈灌流)を減少させ(前負荷の減少)、心筋酸素消費を減少させる。また、動脈系の拡張は、末梢血管抵抗を下げ、左心室に対する負荷を減少させる(後負荷の減少)。また、冠動脈を拡張させ、心筋酸素供給量を増加させることにより、冠動脈の攣縮も抑制する。
・β遮断薬:心拍数減少、心収縮力低下作用により心筋酸素消費を減少させる。労作性狭心症に有効であるが、冠動脈攣縮を起こしやすくなるため、異型狭心症には使用できない。
・カルシウム拮抗薬は前後負荷のほか冠血管拡張作用を有するので、特に冠動脈攣縮の関与する異型狭心症に重要な薬剤である。