発熱に関連するバイタルサイン
血圧
血圧の急激な上昇や低下を伴う発熱は、大動脈解離や敗血症など危険性の高い状態の可能性がある。
呼吸回数
呼吸が上がっている場合、一過性のかぜ症候群ではなく危険性の高い疾患の可能性が高まり、特に30回/分以上の場合は重症が示唆される。
脈拍数
発熱と脈拍は相関することが多く、体温が0.55℃上昇すると脈拍が10回/分上がると言われている。
バイタルサイン以外の重要な確認事項
食欲
食欲の確認は非常に重要で、食欲の低下が栄養やエネルギーの不足をもたらす以外にも、血圧にも関連している。
上気道症状
鼻水やくしゃみ、咽頭痛といった上気道症状のみの場合、基本的には危険性や緊急性が低いが、咽頭痛と発熱のみの場合、急性喉頭蓋炎という可能性もごく稀にある。私もERで2回ほど経験した。
発熱以外の症状と関連するおもな疾患
発熱+咽頭痛
上気道にある咽頭の痛みは、頻度は高いものの、かぜ症候群(急性上気道炎)に代表されるように自然軽快する病態が多いが、口腔内があまり赤くなっていないのに喉頭周囲が激しく痛む場合、急性喉頭蓋炎の可能性があり、気道閉塞リスクがある緊急性の高い疾患である。
甲状腺周囲の圧痛は、亜急性甲状腺炎の可能性がある。
一方、咽頭痛の大多数を占める咽頭部の痛みで、鼻水や咳がなく、いちご舌など溶連菌の感染や、細菌性感染が疑われる場合は、アモキシシリンやセファクロル、クリンダマイシン、アジスロマイシンなどを処方する。
ウイルス性咽頭炎(扁桃炎)を疑った場合、原因ウイルスは、ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなどがある。アデノウイルス感染症の場合、全身倦怠感や筋肉痛を伴うケースが多い。
また、扁桃炎の経過中に片側の扁桃に激しい痛みをきたす扁桃周囲膿瘍や、口蓋垂の後ろにある咽頭後壁が腫れる咽後膿瘍に罹患する可能性もあり、場合によっては緊急処置が必要である。
発熱+呼吸器症状
咳嗽を主訴にした発熱症例の大半はかぜ症候群(急性上気道炎)。基礎疾患のない健康成人では、まずは対症療法としてNSAIDsの投与が基本となる。
呼吸回数20回/分超の頻呼吸や呼吸困難、咳嗽を伴う発熱の場合、肺炎罹患が強く疑われる。
・細菌性肺炎の症状は、湿った咳と膿性痰
・ウイルス性肺炎の症状は乾いた咳嗽や呼吸困難のほか、高熱や全身の筋肉痛
・非定型肺炎の症状は乾いた咳が特徴的
症状発現の2~3週間以内に温泉へ行ったり自宅で循環式風呂を利用した場合、レジオネラ肺炎(非定型肺炎の1つ)の可能性も考えられる。頻度が高いのは肺炎球菌による肺炎。高齢者の場合は症状が乏しいことも多く、倦怠感を訴える程度の場合でも肺炎の可能性は視野に入れる。
咳嗽が2週間以上長引いてさらに血痰を伴う場合、肺結核の可能性が疑ってかかる
発熱+下痢
発熱に伴う下痢で多いのは、ウイルス性腸炎、細菌性腸炎、食中毒で、いずれも便中白血球や便培養検査で原因微生物を調べないと特定できない。
まず脱水の有無、下痢の持続期間、発熱・血便・テネスムスの有無(便意はあっても便が出ない状態)を確認する。
脱水症状がみられたら、経口補水液または点滴が必要
下痢の持続期間は、2週間未満(急性)、2週間以上4週間未満(持続性)、4週間以上(慢性)に分けられ、急性下痢の多くは一過性で予後良好のため対症療法を。一方、持続性または慢性の下痢症状がある場合は、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患、抗菌薬関連腸炎、過敏性腸症候群、悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症といった可能性も考える。
発熱+皮疹
発熱を伴う皮疹は原因疾患が多岐にわたるが、頻度の高いものとしてはウイルス感染による発疹がある。風疹・麻疹は、流行状況とワクチン接種歴を把握することが鑑別に極めて重要だが、全体の数からすると高くない。
軽症の薬疹も頻度が高い病態である。
そのほか頻度の高い発熱と皮疹の疾患としては、皮膚の緊張を伴う浮腫や、皮膚の潰瘍、頻脈、頻呼吸、皮膚病変の範囲を越えた痛みなどの症状がみられるいわゆる軟部組織感染症がある。
頻度は低いものの、緊急性が高い疾患としては、電撃性紫斑病、輸入感染症、重症の薬疹などがある。
電撃性紫斑病は、紫斑・点状出血が出現して急速に進行する病態で、多くは敗血症を呈しているため、バイタルサインのチェックが重要である。
1カ月以内の海外渡航歴(特にアフリカ、アジア)がある患者さんの皮疹と発熱は、ウイルス性出血熱、デング熱、腸チフスなどの輸入感染症を考える。
全身の発疹に加え、口腔や眼の粘膜にも病変が出現している場合は、重症の薬疹を疑う。原因となりやすい薬剤としてアロプリノール、抗てんかん薬(特にカルバマゼピン)、抗菌薬(サルファ剤)が知られている。
薬剤熱
薬剤熱とは、「薬剤の投与に関連して発生し、薬剤の中止後に消失するものであり、身体診察や検査所見にて原因が明らかでないもの」。
発疹がみられれば薬剤熱の可能性を探りやすくなる。ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬が処方されている場合、薬剤熱の可能性が高まるため、処方薬の中止や変更の可能性も視野に入れる。
発熱+関節痛・背部痛・腰痛
関節痛を伴う発熱をきたす疾患は、感染性関節炎、痛風、偽痛風、関節リウマチ、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症など多岐にわたる。
背部痛や腰痛に発熱を伴う病態の多くは、特別な治療が必要のないウイルス感染などの感染症によるもので、鎮痛剤や湿布剤などで治療することが一般的。
しかし発症時刻が特定できるほどに突然痛みが発症した場合、血圧上昇がみられれば大動脈解離、血尿を伴えば尿路結石が疑われる。
発症から数日程度の急性の痛みの場合、咳嗽があれば急性肺炎、胆石があれば急性膵炎、膿尿があれば急性腎盂腎炎の可能性が考えられる。
慢性的な痛みが続くケースでは、体重が減少していれば悪性腫瘍が疑われ、糖尿病・慢性腎臓病・アルコール依存といった基礎疾患があったり経静脈麻薬を常用していれば腸腰筋膿瘍の可能性もある。
発熱+泌尿器症状
排尿時痛、残尿感、下腹部痛、頻尿、尿混濁、血尿といった膀胱炎の症状に発熱を伴う女性は腎盂腎炎の可能性がある。
腎盂腎炎は女性に多い疾患で、同じ症状が男性にある場合は急性前立腺炎が考えられ、肛門周囲の不快感、下部腰痛などがみられる。
このほか、精巣上体炎や腎膿瘍、腎周囲膿瘍といった疾患の可能性が考えられるが、いずれの疾患であっても適切に抗菌薬による治療を行う。
発熱の鑑別疾患
・血管性疾患:肺塞栓症
・腫瘍性疾患:リンパ腫
・先天性疾患:家族性地中海熱、TNF受容体関連周期性症候群 (これらは稀)
・アレルギー・自己免疫性疾患:全身性エリテマトーデス、成人発症スティル病
・内分泌代謝性疾患:亜急性甲状腺炎、甲状腺クリーぜ、副腎クリーぜ
・精神疾患・心因性:許病、虚偽障害
高熱を呈する代表的疾患
・感染症:インフルエンザ、結核、腎盂腎炎、胆管炎、レジオネラ感染症
・腫瘍性疾患:リンパ腫、腎癌、肝細胞癌
・自己免疫性疾患:成人発症スティル病
不明熱の診断
・体重減少:結核、癌、HIV/AIDS
・咳嗽+体重減少:結核
・咳嗽:結核、高安病(血管炎)
・頭痛:巨細胞性動脈炎、顎跛行、視力障害
・上腕から肩にかけての痛み・こわばり:リウマチ性多発筋痛症
・咽頭痛:成人発症スティル病、亜急性甲状腺炎、レミエール症候群
・頸部痛:髄膜炎、リウマチ性多発筋痛症、亜急性甲状腺炎、レミエール症候群
・腰痛:骨髄炎、癌
・下肢の痺れ:血管炎(タンパク尿、血尿の有無を確認)
・難治の中耳炎:顕微鏡的多発血管炎
発熱に加えて
・比較的徐脈:腸チフス、マラリアQ熱、ブルセラ症、黄熱、髄膜炎、腎細胞がん、リンパ腫、中枢神経の腫瘍
・血痂:ツツガムシ病
・診断のつかな扁桃炎:急性HIV感染
・関節痛・関節炎:偽痛風、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、血管炎、成人発症スティル病、サルコイドーシス、ベーチェット病、炎症性腸疾患
・白血球減少、リンパ球減少:全身性エリテマトーデス
・血小板増多:リウマチ性多発筋痛症、巨細胞性動脈炎、高安病
・異型リンパ球:伝染性単核球症、トキソプラズマ症、ブルセラ症、マラリア、ツツガムシ病