呼吸は、①換気、②ガス交換、③肺血流の3つのプロセスからなる。
A換気
1.肺気量分画
・1回換気量(TV):安静呼吸時の換気量 約500ml
・肺活量(VC):最大吸気位から呼出しうる最大呼気量 約3750ml
・残気量(RV):最大呼気位で肺内に残っている量 約1500ml
・機能的残気量(FRC):安静呼気位で肺内に残っている量 約2500ml
・全肺気量(TLC):VC +RV 約5250ml
2.換気のメカニズム
呼吸筋の働きにより肺を拡張させたり収縮させることによって換気が行われる。
肺は胸壁内側を覆う壁側胸膜と肺を包む肺胸膜によって覆われている。この隙間は閉鎖空間であり、大気圧より低い(-2〜-4cmH2O)。これが吸気によって胸郭が広がるとさらに陰圧になり、肺は広げられて肺胞内圧が低下しガスが肺内へ流入する。
全身麻酔時は陽圧換気と呼ばれ、気道からガスを送り込み、肺の中を陽圧にすることによって肺内へガスが流入する。
3.換気量
・分時換気量:TVに1分間の呼吸数をかけたもの
・死腔換気:口腔から細気管支まではただ単に空気の通り道で、ガス交換に関与しないためこの部分を死腔という。成人でおよそ150mlである。全身麻酔では人工鼻、延長回路、挿管チューブも死腔となる。
4.呼吸器系のメカニクス
aコンプライアンス
肺コンプライアンスとは、肺の膨らみやすさを表すもので、コンプライアンスが大きい=膨らみやすい軟らかい肺。加齢や肺気腫では増加するが、肺水腫や間質性肺疾患では低下する。また、肥満などでも胸郭のコンプライアンスは低下する。
b気道抵抗
気道抵抗は主に鼻や上気道などの中枢部気道によるもの。
5.不均衡換気
換気は重力の影響を受け、立位において肺の下部領域は肺尖部より換気量が多く必要とする。
Bガス交換
肺胞において、肺胞壁と肺胞毛細血管壁を介して肺胞気と血液の間でガス交換が行われる。このガス交換は、拡散によって生じる。
拡散とは、肺での酸素や二酸化炭素の拡散は、ガス分圧の勾配と拡散係数に規定される。肺胞壁の肥厚や肺水腫などによる移動距離の増大や無気肺や肺気腫などガス交換面積の低下により、酸素の拡散障害が生じる。二酸化炭素は拡散能も高いので、拡散障害は生じにくい。
C肺血流
体内で産生された二酸化炭素は血流によって肺に運ばれ、肺胞から酸素を受け取った血液は肺から全身へ運ばれる。
肺循環は立位では、肺底部の血流は豊富であるが、肺尖部の血流は肺血管の抵抗に伴い減少する傾向にある。
1.肺シャント
気道の閉塞や無気肺などによって換気が行われない領域を通る血流を肺シャントと呼び、シャント血流量の増加は低酸素血症を引き起こす。シャントにおいてはいくら吸入酸素濃度を増加させてもシャント部の血流はガス交換されないため、低酸素血症は改善しない。
D換気と血流の関係
前述のように、換気も血流も肺の各部分で不均衡が存在する。部分的な換気血流の不均衡があると、ガス交換率は低下し、PaO2の低下、PaCO2の増加をきたす。
健常者においても換気血流比は肺尖部で最も高くなる。肺気腫や無気肺などではさらに不均衡が生じる。
E呼吸器能検査:スパイロメトリ
F動脈血ガス分析
PaO2 60 mmHg以下は呼吸不全とされる。
パルスオキシメトリについて
A酸素飽和度とは
ヘモグロビンは肺で酸素を受け取ると酸素ヘモグロビンとなって酸素を運び、末梢組織で酸素を放出すると還元ヘモグロビンとなる。
酸素飽和度とは血液中の全ヘモグロビンにおける酸素ヘモグロビンの比率である。
パルスオキシメータは経皮的に酸素飽和度を測定するモニターで、正常値は95〜100%。
B酸素飽和度測定の必要性
肺で取り込まれた酸素は動脈血によって各臓器に運搬される。
血液による酸素運搬の大部分はヘモグロビンによって行われているので、動脈血の酸素飽和度を測定することは、体に充分な酸素が供給されているかの指標となる。
C酸素飽和度と酸素分圧
動脈血酸素分圧(Pao2)とは、血液中に溶存している酸素の量を分圧で表したものであり、動脈血酸素飽和度(Sao2)とは異なる。
Pao2はSpo2が90%あたりから急激な低下を示し、このレベルでは酸素供給が急激に低下することを意味する。
Dどのように酸素飽和度を測定しているか
さまざまな物質はある特定の波長の光を吸収し、それ以外の光は反射あるいは透過する特性がある。
血液において酸素ヘモグロビンと還元ヘモグロビンは異なる吸光特性を持っており、この違いを利用してそれぞれのヘモグロビンの比率が求められる。
この2種類の波長の光を発光部のダイオードから放ち、受光部でその吸光度を測ることでヘモグロビン酸素飽和度を測定する。
得られる吸光度はすべての組織を含めたものとなる。
発光部と受光部を正しく向かい合わせに配置させることが測定原理的に重要である。
Eヘモグロビン酸素飽和度の正常値
一般に、安静時のSpo2は95〜100%。
90〜95%は要注意。
90%以下は積極的な対処が必要。
生命維持に必要な酸素の各臓器への提供は、酸素飽和度のほか、ヘモグロビン濃度、心拍出量が関与している。
F術中にSpo2が低下した場合の考えられる原因と対処法
患者の酸素飽和度が低下している場合と、測定エラーが大きく考えられる。
麻酔中は吸入酸素濃度の低下、低換気、無気肺、気胸、肺塞栓、肺水腫、片肺換気などのほか、呼吸回路の外れや気管チューブの閉塞・位置異常などの気道トラブルが原因で酸素飽和度が低下する。
カプノメトリについて
✅カプノメトリとは、呼気中の二酸化炭素測定法のこと
✅呼気終末CO2(PETCO2)分圧は、動脈血CO2分圧を反映し、正常範囲は35〜45mmHg
✅呼気終末CO2は、か換気や心拍出量減少、肺血流量減少に伴って低下し、低換気や心拍出量増加、高体温、阻血部の再灌流、気腹に伴って上昇する。
✅カプノグラムの波形から、呼出障害や自発呼吸の出現、二酸化炭素の再呼吸、呼吸回路のトラブルなどの情報が得られる
A測定方式
1.メインストリーム方式
呼吸回路の気管チューブに近接した部位にアダプタと二酸化炭素センサーを組み込み、アダプタのチャンバーを流れる呼気ガスを直接測定する方式。
長期の測定では、サイドストリーム方式によるサンプリングチューブの詰まりを避けるためにこの方式が好まれ、ICUでの人工呼吸管理に用いられることが多い。
2.サイドストリーム方式
患者に接続された呼吸回路からサンプリングチューブを介して呼気ガスの一部を接続し、カプノメーター本体で測定する方式。
同時に吸入麻酔薬の濃度を測定することもできる。
サンプリングチューブを鼻腔近くに留置し呼気ガスを採取することによりカプノグラムが描けるので、主に呼吸数の監視が可能となる。
B呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)
動脈血の血液ガス分析によって得られる動脈血二酸化炭素分圧は、肺における換気の状態を表す指標。
カプノメーターでは、呼気中の二酸化炭素濃度・分圧が測定され、PaCO2を反映する。
Cカプノグラム
吸気および呼気の二酸化炭素分圧を連続的に測定し、経時的に曲線で表したものを時間カプノグラムという。
1.正常なカプノグラム
2.カプノグラムの波形からわかること
患者の呼吸や循環の状態を把握するのに有用であるほか、麻酔中に起こりうるさまざまな気道のトラブルを早期発見することができる。
a.人工呼吸中の換気量の評価
過換気や低換気の変動を推測できる、すなわち換気量が適切かを評価できる。
b.気管挿管の確認 (食道挿管の発見)
食道挿管では二酸化炭素が呼出されないため、カプノグラムは基線にあり、波形が得られない。
c.呼出障害
立ち上がりがなだらかで、プラトー部分が右上がりの波形になる。呼気延長の所見である。
気道狭窄、慢性閉塞性肺疾患、喘息発作、気管支攣縮などなんらかの呼出障害が考えられる。
d.肺塞栓
PETCO2の急激な低下から疑う。SPo2の低下や血圧の低下を伴う。