フィジカルアセスメント (頭頸部)
1. 眼
・眼球突出がないか確認
・眼瞼結膜の色調を確認(緑の蒼白は貧血を意味する(Hb11以下))
・眼球結膜に黄染や充血がないか確認(Bilが3以上)
・瞳孔の大きさ、形、左右差を確認する
2. 副鼻腔
・前頭洞、上顎洞付近に中指をあて、反対の中指で軽く打診し、痛みの有無を確認する、また圧痛の有無を確認する
→副鼻腔炎の鑑別
3. 口腔内
・ペンライトと舌圧子を使用し咽頭粘膜、歯、歯肉、咽頭後壁、扁桃を観察する。
舌圧子が使いにくい場面では、「あー」と声を出してもらったり、頸部を後屈させたりすると観察しやすくなる
・扁桃は、腫脹、発赤、白苔の付着など、扁桃炎の所見の有無を観察する
4. 頸部
・頸部のリンパ節を触診する。頸部では1cm以上を腫脹とする。
・リンパ節はリンパ液の濾過を行なっており、微生物やがん細胞が到達すると反応性に腫脹する
5. 甲状腺
甲状腺を正面から観察し、その後母指で軽く触診する
6.内頸静脈
怒張は、中心静脈圧の上昇を、虚脱は脱水などの循環血液量の減少を示唆する
7. 髄膜刺激兆候
頸の前屈で痛みが誘発され、顎が前胸部につかない場合は陽性と考え、髄膜炎を疑う。
代表的疾患でみられる症状・兆候・局所所見 (頭頸部)
1. 頭部・顔面
・脱毛あり:感染症などの皮膚疾患
・満月様顔貌:クッシング症候群
・表情が硬く、変化に乏しい:パーキンソン病
2. 眼
・眼球突出あり:バセドウ病
・眼瞼結膜に蒼白あり:貧血
・眼球結膜に黄染あり:肝炎、胆管炎などの肝胆道系疾患
・眼球結膜に充血あり:結膜炎
・瞳孔不同あり:頭蓋内病変
・水晶体に白濁あり:白内障
3. 副鼻腔
・副鼻腔周囲に叩打痛、圧痛あり:副鼻腔炎
4. 口腔内
・繰り返す口腔内潰瘍:SLE、ベーチェット病など
(ベーチェット病は、口腔内のアフタ性潰瘍、外陰部の潰瘍、皮疹などの皮膚症状・ぶどう膜炎(眼の炎症)とされている)
・咽頭後壁に発赤:咽頭炎
・扁桃腫脹、発赤、白苔の付着:溶連菌性扁桃炎、伝染性単核球症など
・軟口蓋の花穂、口蓋垂の偏位:扁桃周囲膿瘍
5. 頸部
・下顎角直下リンパ節に腫脹:急性扁桃炎、急性咽頭炎など
・鎖骨上窩リンパ節に腫脹:甲状腺、喉頭疾患、真菌感染症
(硬く、可動性不良:消化器がんなどのリンパ節転移)
圧痛:通常は炎症を意味する
・全体的な甲状腺腫大:バセドウ病、甲状腺腫瘍など
・坐位で内頸静脈の怒張:心不全、心タンポナーデなど
・ネックフレクションテスト陽性:髄膜炎など
・扁桃の発赤、腫脹、白苔の付着:細菌性扁桃炎やEBウイルスの感染症を疑う
(細菌性の場合は前頸部リンパ節の腫脹が認められるが、ウイルス性の場合は全身の感染症のため、後頸部リンパ節の腫脹が一般的である)
・胸部の小水泡音は肺水腫、心不全などで認められる
・明らかな内頸静脈の怒張は心不全を疑う
フィジカルアセスメント (呼吸器)
1. 視診:呼吸の状態
2. 打診
・利き手と反対側の中指DIP関節を打診部位の表面にしっかりと固定し、利き手の中指でDIP関節を素早く弾ませるように叩く。その中指に伝わる振動を確認する。
3. 聴診:肺音は膜型で聴診する
1) 正常呼吸音の確認
2)呼吸音の異常の有無
・聴こえるべき呼吸音が聴こえない:呼吸音の減弱・消失(肺気腫、COPD)
・本来と異なる場所で聴こえる-気管支音化(肺胞音が聴こえるべき部位で気管支呼吸音を聴取する:大葉性肺炎など)
3)副雑音
①断続性副雑音(吸気時に聴取)
・大水泡音
低音の荒い断続性の音で吸気初期から始まり、貯留した分泌物の中を気泡が流れることで弾けた音がする(肺炎)
・捻髪音・小水泡音
断続性の細かい音で吸気半ばから週末に聴取する高めの音。吸気時に閉じていた小気道が吸気によって急激に再開通した音。間質性肺炎で聴取された細かな音を捻髪音、心不全の際に聴取するやや湿った音を小水泡音と区別することもある。
②連続性副雑音(吸気時に聴取)
・喘鳴:管楽器様の音が混在した多音性の高音性連続性副雑音
・いびき音:低音性連続性副雑音。痰が貯留するなどが原因
・ストライダー:高調性の音で頸部で大きく聴取される。喉頭や気管の部分的閉塞により生じ、救急処置が必要。
・笛声:気管支内に分泌物が付着、あるいは異物により気道が狭くなっている箇所を、呼気相で空気が通り抜ける時に生じる。
③非肺胞性副雑音
・胸膜摩擦音:胸膜どおしが擦れ合う時に生じる(胸膜炎)
・ハマン兆候:心拍動に同期する断続性のパリパリ音(縦隔気腫)
代表的疾患でみられる症状・兆候・局所所見 (呼吸器)
1.努力呼吸・陥没呼吸
・通常、吸気時には横隔膜が収縮して下がり、外肋間筋が収縮して胸壁が横上方に広がって胸郭内の容積が増す。すると胸腔内の圧が下がり、その結果肺に空気が流入して肺が広がる。
・しかし気管支喘息やCOPDでは横隔膜や外肋間筋といった呼吸筋が疲弊し、吸気時に呼吸補助筋と言われる胸鎖乳突筋や斜角筋が収縮し吸気を助ける努力呼吸となる。胸腔内の陰圧が増すと、鎖骨上窩や肋間が陥没し陥没呼吸となる。これらは、重度の呼吸不全を示唆する所見となる。
2.肺炎のフィジカル所見
・聴診上は、吸気時に断続性の荒い副雑音を認める(大水泡音)。肺胞に浸出液があると肺胞呼吸音は減弱する。
肺音は解剖学的にも前面と後面両方から聴診する必要がある
フィジカルアセスメント (循環器)
1.視診(静脈系)
半坐位で頸静脈の怒張の有無と程度をチェックする
2.触診(動脈系)
・橈骨動脈を両側同時に触診
→拍動の強さに左右差がある例も見られる(不整脈)
・足背動脈を両側同時に触診
→下肢動脈硬化疾患の鑑別
・右側の頸動脈拍動を3本の指で触診
・患者を半左側臥位にして、心尖拍動を指先で触診
代表的疾患でみられる症状・兆候・局所所見 (循環器)
1.動悸
・安静時に訴える:不整脈の例が多い
・労作時に訴える:息切れと同じ症状のことが多い
2.息切れ
安静時よりも労作時に訴えることが多いので、動悸の労作時と同様の対応で
3.胸痛
安静時に訴える:肋間神経痛が多い
労作時に訴える:多くは冠動脈疾患を考慮して精査、心疾患も見逃さないように聴診を行って心雑音の有無も確認する
収縮期雑音を聴いたら
ノコギリを引くような荒々しい響き:大動脈狭窄
風が吹くようなさわやかな高い響き:僧帽弁逆流
うっ血性心不全
・左心不全ではIII音ならびに肺の湿性副雑音
・右心不全では頸静脈の怒張ならびにに浮腫
同じ収縮期雑音でも、AS(大動脈弁狭窄)とMR(僧帽弁逆流)の聴診所見が違う
・ASは雑音は収縮期で、聴診部位は心尖部から右肩のエリア
・MRは雑音は収縮期で、聴診部位は心尖部から左側の腋窩
静脈系は視診
動脈系は触診
心臓系は聴診
足がだるい、痺れるなどは
・心房細動がないか、心房細動による左心房内に生じた血栓が下肢に飛んでいないか
・足背動脈は触れるか
・疼痛の有無
・Dダイマーはどうか
フィジカルアセスメント (腹部)
①腹痛の患者では表情の観察も大切。苦痛様または苦悶様(くもんよう)の表情は重篤な疾患を示唆する
②ショックバイタルや敗血症サイン(頻呼吸、意識変容、低血圧)に注意する
聴診は蠕動音の確認
触診
・両側の股関節と膝関節を屈曲させて腹壁筋の緊張を和らげる
・寒い冬の時期は、手と聴診器を温める
・まずは浅めの触診、そして深めの触診
・病巣と思われる場所から離れた部位より初めて、最後に病巣に至るようにする
・患者の呼気に合わせて行う
・反跳痛の有無の確認、2〜3本の指でゆっくりとやさしく患部に圧迫を加えて、少しその状態を維持したあと、パッと素早く手を離す。患者の自覚を確認して、除圧時痛の有無を確認する
・適用がある場合、直腸診を行う
・腹痛の原因として、鼠径や大腿ヘルニア、あるいは精巣捻転のことがある。
代表的疾患でみられる症状・兆候・局所所見 (腹部)
腹膜炎
・ベッドで横になって背中を丸めてじっとしている場合は腹膜炎のことがある。腹膜炎では体動時に痛みがひどくなるのでじっとしている。反跳痛は腹膜炎を示唆する。
虫垂炎
・心窩部と臍部の自発痛と右下腹部の圧痛と反跳痛が典型的
・腹痛の原因が帯状疱疹の場合もあるので、皮疹に注意する
閉鎖筋兆候
・股関節と膝関節をそれぞれ90度に屈曲し、股関節を内旋させて、痛みの増強が陽性であれば、虫垂炎などで閉鎖筋への炎症波及を示唆する。
腸腰筋兆候
・側臥位として股関節を伸展させて、痛みの増強が陽性であれば、虫垂炎などで腸腰筋への炎症波及を示唆する。
視診
・腹部膨満
腸内ガス:腸閉塞やイレウス
便:便秘
水:腹水
皮下脂肪:肥満
胎児:妊娠
また、膀胱充満(尿閉)の可能性もある
・手術創部
過去の手術歴を反映した手術創部の瘢痕にも注意する
・皮下出血
斑状皮下出血を認めた場合は、腹腔内での出血を示唆することがある。
触診
・正常でも認める圧痛
腹部大動脈、総腸骨動脈、盲腸、S状結腸などがある
・心理的疼痛
胸部や四肢を触診しても痛がることで鑑別がつく
・腹壁由来の疼痛
ときどき、腹痛が腹壁由来のことがあり、腹直筋血腫や前皮神経絞扼症候群などがある。
・皮膚知覚過敏
脊髄神経根症や帯状疱疹などでよくみられる
・関連痛
関連痛は病変部位に近い皮膚の痛み、放散痛は病変部位から離れた皮膚の痛みである。急性胆嚢炎の放散痛が右肩甲骨より下の付近に起こるものをボアス兆候、脾臓破裂で左肩に関連痛をきたすものをカール兆候と呼ぶ。
・急性胆嚢炎では、マーフィー兆候、モイニハン兆候がある。
・急性膵炎ではマレットガイ兆候がある。
・腹水では1側の側腹部を打診し、反対の側腹部で波動を感じる。シフティングダルネスや、パドル兆候、グアリノ兆候などがある。
・腹痛患者で腹痛部位の特定が困難な時に、息こらえを行うと、患者が腹痛部位を特定できることがある(バルサルバ腹痛誘発テスト)
フィジカルアセスメント (四肢骨格筋)
・熱感の左右差:関節炎の有無、変形性関節症では熱感はない
・関節液の有無:関節炎の有無
・関節裂隙の圧痛:半月板損傷の感度が高い
・内側、外側への不安定性:側副靭帯損傷
・前後不安定性の有無;十字靭帯損傷
・関節の腫脹や熱感があれば、関節炎を強く疑う
・コレス骨折:フォーク状変形
橈骨遠位端骨折で遠位骨片が背側に転位したもの
・肘関節脱臼/上腕骨顆上骨折
・肩関節脱臼
肘上腕骨頭が脱臼し、肩峰が孤立して肩章サイン(肩が角張る)を起こす
・大腿骨骨折(大腿骨近位骨折)
大腿骨骨折を起こすと、下肢は外旋・短縮することが多い
踵の位置の違いにも注意する
・股関節脱臼
股関節が屈曲し内転し、また左膝の高さが低くなる
・総腓骨神経麻痺(足趾が底屈していたら疑え)
特に大腿骨骨折を起こすと下肢が外旋するため、膝外側の腓骨頭の下にある総腓骨神経が、腓骨と床の間に挟まれて総腓骨神経麻痺を起こしやすくなる。
フィジカルアセスメント (乳房・リンパ節)
・視診
左右差、皮膚の色合いやびらん・潰瘍の有無、ひきつけなど
皮膚が赤い場合は、炎症性疾患、炎症性乳がんを鑑別にあげる
・触診
患者は坐位・臥位で両手を挙げて、医師は指の腹で押し撫でるように触診する。
乳房や腋窩に腫瘤があれば精密検査を勧める
フィジカルアセスメント (泌尿・生殖器)
全体のポイント
・尿の性状、量の変化
・カテーテルの種類、固定位置、交換日の確認
・なぜカテーテルが必要なのか把握する
・下腹部は消化管、泌尿器、生殖器を意識して診察する
・会陰部は出血、膿、進出液など、消化管、泌尿器、生殖器のどこから出てきているのか意識して診察する
・患者背景、リスク因子、臨床経過なども情報収集を行う
フィジカルアセスメントの基本手順
1.CVA叩打痛:軽く拳で叩打し、疼痛が誘発される場合には感染や尿路閉塞が腎臓レベルまで及んでいることを考える
2.腹部所見:恥骨結合上部に触診上膨満および打診上認める場合には膀胱緊満を疑う(エコーで確定診断を)
3.直聴診:便塊の有無、前立腺の触診、肛門括約筋反射の有無
4.会陰部:視診上左右差、局所熱感・発赤・腫脹の有無など
男性は外尿道口の観察も
排尿トラブル
・患者の通常の1回排尿量、排尿回数、時間帯を把握する
・飲水量、全身状態(風邪、手術後、飲酒後など)、薬剤の変化を把握する
・尿閉にて極度に膀胱緊満している場合は、尿閉解除に伴い、迷走神経優位になり急な血圧低下や心拍低下をきたす場合があるので、それらが起こりやすい既往(心疾患、脊髄疾患)やセプティックショックの患者などには、バイタルサインの変動に注意する。
尿量:○○ml/日
(○○Fr、蒸留水○○cc、○○cm固定、次回交換日○○)
カテーテルの状態(閉塞などはないか)
発赤、漏れ、疼痛など特になし
飲水量、通常の1回排尿量、排尿回数、時間帯
全身状態(風邪、手術後、飲酒後など)、薬剤の変更の有無
多尿なのか頻尿なのか
前立腺肥大など既往歴はないか
女性の場合は、会陰部の観察(外尿道口、膣の観察)
→尿道カルンクル、尿路腫瘍(膀胱炎との鑑別も)、不正性期出血の鑑別を
フィジカルアセスメント (神経系)
1.意識・言語(注意および見当識、構音障害)
高齢者では見当識をきちんと確認することにより、初期の認知症が見つかる場合もある
意識レベルの変調が疑われる場合は、JCSやGCSで記載する
高次機能
記憶、視空間認知、言語(失語)について診察する
2.
脳神経 1〜7
1神経 (嗅覚):嗅覚低下の訴えがある場合に行う
→目をつむってもらって、何の匂いがしたか当ててもらう
(パーキンソン病やレビー小体認知症では有用な所見)
2神経
→患者に自分の手で片目を覆ってもらい片眼ずつ検査する
検者の花を注視するように指示し、検者は自分の視野いっぱいのところに置いた指を動かして患者が見えるかどうか確認する。上下左右4箇所を確認する。
3,4,6神経 (眼瞼下垂、瞳孔、対光反射、眼球運動、眼振)
・眼瞼下垂:自然な状態で遠くをみるように指示して、上眼瞼が瞳孔を半分以上覆うなら眼瞼下垂ありと判定する
・瞳孔:2mm以下は縮瞳、5mm以上は散瞳とする
・対光反射:ペンライトを使用し、縮瞳する直接反射を観察
・眼球運動:ペンライトなどを上下左右に動かし、眼球運動制限がないか確認する
・眼振:上下左右において眼振の有無を観察する
5神経 (顔面の痛覚検査)
・三叉神経の支配領域を把握しながら、V1,V2,V3領域についてるまようじで軽く痛覚検査をし、左右差があるかみる
7神経 (額のしわ寄せ、閉眼、鼻唇溝の左右差)
・額のしわ寄せ:視線を上方に誘導し、しわの左右差を確認
・閉眼:両目をぎゅっと閉じてもらい、まつ毛徴候の有無を確認する
・鼻唇溝の左右差:いーっと言ってくださいと指示、鼻唇溝のしわの左右差をみる
8神経 (指こすりの聴覚検査)
・耳から約15cm離れた距離で、母指と示指・中指をこすり合わせて聞こえるか検査する。聞こえなければ聴力低下の可能性
9,10神経 (軟口蓋の挙上、咽頭後壁の動き)
・患者にあーっといってくださいと指示し、軟口蓋が左右対称に挙上することを確認する
11神経 (僧帽筋力の左右差)
・患者に肩をすくめてもらい筋力の左右差をみる
12神経 (萎縮、繊維側攣縮)
・舌をまっすぐ出してもらい、明らかに偏諱した場合、偏諱した側が麻痺である。
・口を自然にあけた状態で、舌が細かく震えてる場合は繊維束攣縮陽性と判断する
3.運動系 (上肢バレー徴候、握力、筋萎縮、筋トーヌス)
・上肢バレー兆候:手のひらを上にして両腕を前方に水平に挙上させ、目をつぶってそのままの位置に保つよう指示する。麻痺側上肢は回内して下降する。回内せず下降する場合は、ヒステリーや位置覚障害などを考える。
・握力:握力計を力一杯握ってもらい、上肢遠位の筋力を評価
・筋萎縮:四肢の近位筋と遠位筋の筋量の左右差を見る。同部位の末梢神経筋疾患を考える。
・筋トーヌス:患者の肘を90度に曲げて力を抜いてもらい、他動的に前腕を回内、回外させる。肘関節や手関節を屈曲、伸展させる。抵抗があれば筋トーヌスが更新している。歯車を回すようなカクンカクンという抵抗があればパーキンソン病を考える。
・ミンガッチーニ試験:仰臥位で両下肢の股関節と膝関節をそれぞれ90度曲げた状態を保ってもらう。わずかな筋力低下でも障害側の足が下がってくる。
4.協調運動 (上肢鼻指鼻試験、下肢踵膝試験)
・上肢鼻指鼻試験:患者の第1指で自分の鼻先を触り、その次に検者の指先を触り、続いて患者の鼻先を交互に触るように指示する。連動の円滑さ、振戦や測定異常の有無を観察する。
・下肢踵膝試験:臥位で、一方の下肢を挙げて踵で他方の膝を触れ、向こう脛に沿って踵を足元まで降下させる動作を繰り返す。
5.立位・歩行:立位、通常歩行、つぎ足歩行
・立位:坐位から立ち上がって、何もつかまないで立位保持ができるかみる
・通常歩行:普通に歩いてもらい、姿勢、上肢の腕振り、足の運び、方向転換時の動きに注目する
・つぎ足歩行:通常歩行が問題なければ、綱渡りをするように一直線とつま先と踵をくっつけて歩いてもらう。75歳以上はできなくても異常とは限らない。
6.感覚系:痛覚、振動覚
・特に訴えがない場合は、左右の四肢遠位部の痛覚と振動覚をみる。
7.反射:腱反射、ホフマン反射、トレムナー反射、バビンスキー反射
反射が減弱〜消失していればその中枢レベルの障害、亢進していればそのレベルより上位ニューロンの障害である。
・下顎反射 (橋):患者に口を軽く開けてもらい、検者の第1指を顎中央に置き、その上から打鍵器で叩く。正常な場合は下顎反射は観察されない
・上腕二頭筋反射 (C5):検者の母指を上腕二頭筋の健に置き、その上からハンマーで叩く。正常の場合は肘関節が屈曲する。
・橈骨筋反射 (C6):前腕をお腹に乗せてもらい橈骨筋の腱の部分を叩く。正常の場合肘関節が屈曲する。
・上腕三頭筋 (C7):患者の手を軽く持ち上げ肘関節を90度に屈曲させベッドにつかないようにする。正常では肘関節がわずかに伸展する。
・膝蓋腱反射 (L3):膝関節を120度に曲げた状態で両膝窩を上下で下から軽く支える。膝蓋腱を直接叩き、正常では膝関節がわずかに伸展する。
・アキレス腱反射 (S1):下肢を軽く外転させ膝関節を軽く曲げる。検者は足底部を軽く持ち上げアキレス腱が適度に伸ばされた状態で叩く。正常では足関節が底屈する。
・全体的な反射の亢進は何らかの代謝異常(高カルシウム血症など)の場合もあり、全体的な減弱は正常でもありうる。
・ホフマン反射:検者の手で患者の手をもち手関節をやや背屈させる。検者の中指と母指で患者の中指DIP関節付近をはさみ、検者の親指で患者の中指爪を弾くように刺激する。患者の母指が軽く内転すると陽性で、錐体外路障害を考える。
・バビンスキー反射:足底部の外縁を踵から中趾基部に向かってゆっくりこする。正常は母趾が足底のほうに屈曲する。反対に背屈する場合は錐体外路障害と考える。
錐体外路障害
・抗うつ薬などを長期間服用したときにドーパミンの過剰な遮断によって出現する症状のこと。
・錐体外路とは自分の意思とは関係なく現れる運動と緊張を支配している神経経路のことであり、錐体路(自分の意思で支配している神経経路)との協調によって私たちは随意的に運動することができるシステムとなっている。
8.髄膜刺激徴候:項部硬直
・仰臥位で診察する。ゆっくり前屈させて下顎が抵抗なく全胸部につけば異常なし。前屈させた時にのみ抵抗があれば項部硬直を疑う。項部硬直はくも膜下出血や細菌性髄膜炎の際に陽性となる。
9.高次機能:記憶、視空間認知、言語(失語)
・高齢者やなんとなく反応が鈍い患者に検査する
・記憶:計算や無関係な単語を復唱し覚えてもらい5分後に思い出してもらうなどを観察する。すべて正答しなければ記憶の障害と考える。
・視空間認知:聴診器の両端をもって患者に真ん中をさしてもらう。右寄りを指す場合は、左半側空間失認があると考える。
・言語:失語症は運動性失語と感覚性質語に分けられる。物品呼称(時計などを見せてこれは何ですかと答えさせる)がスムーズにいえなければ運動性失語の疑い、口頭指示(左手で右の耳を触ってください)ができなければ感覚性失語を疑う。