心不全とは渋滞に例えられ、心臓の器質的・機能的異常が生じ心ポンプ機能の代償機転が破綻し、心室拡張末期圧の上昇や臓器への灌流不全をきたした状態である。
つまり、心臓は血液を送り出す臓器で、心臓に何らかの不具合が生じると、うまく血液を送り出すことができなくなり、血液が渋滞を起こす。肺から心臓に戻る血液の渋滞が大きくなると、心臓の手前にある肺でも渋滞が起きてしまい、やがて肺に水が漏れてしまい、息が苦しくなる。
渋滞した血液をおしっことして出してあげることが心不全の大きな治療である。
急性心不全の病態
症状
手足の冷汗、チアノーゼ、不穏や身の置き所のなさといった症状、左心系のうっ血によふ呼吸困難や起座呼吸、右心系のうっ血による頸静脈怒張、下腿浮腫、腹水などが症状。
また、心拍出量低下((収縮期血圧-拡張期血圧)/収縮期血圧が25%以下つまり収縮期と拡張期の差が小さい)による四肢冷感、チアノーゼ、冷汗、意識低下、意識障害、有症状低血圧、倦怠感、チェーンストークス呼吸などがある。
初期対応
これらの主訴が見られた場合、まずABCに注目して重症度を評価する。そして末梢循環不全徴候の確認すなわち意識障害、末梢冷感、冷汗、皮膚色調不良がないかを確認する。
モニター装着と酸素投与やルート確保はもちろん、採血、動脈血液ガス、12誘導心電図、胸部レントゲン、心エコー検査、聴診を行いながら問診を行なっていくことが重要である。
聴診ではⅢ音やⅣ音が聴かれることがあり、また肺野において「プツプツ」という水泡音(湿性ラ音)が聴かれればこれも心不全を示唆する所見である。
臨床所見の収集
●病歴:運動耐用能、呼吸困難感、浮腫などの経過、誘因はないか、発症様式など
●既往:心疾患の既往、各リスク因子、家族歴など
●内服:β遮断薬、ACE阻害薬/ARB、利尿薬、抗不整脈薬、ジゴキシンなど
●身体所見:頚静脈怒張(胸骨角より3cm以上で見られたら陽性)、腹(肝)頚静脈逆流(AJR)(ベッドを45度にして腹部を10秒間圧迫し、4cm以上の頚静脈波が10秒間持続したら陽性)、コースクラックル、Ⅲ/Ⅳ音、心雑音、浮腫、末梢冷感、腋窩乾燥など
●胸部X線検査:CTも有用である。含気の低下や蝶形像いわゆるバタフライシャドウや上肺野の血管陰影、二次小葉隔壁肥厚(カーリーBライン)、気管支壁肥厚、葉間胸膜の肥厚所見(毛髪線)。VPW≧70mmかつCTR≧55%。
●採血検査:心筋トロポニンT、BNP(400以上で心不全の可能性大)、甲状腺ホルモン、電解質、貧血、心筋逸脱酵素など、血ガス(乳酸、Cr)
●心エコー検査:左室駆出率(LVEF)、局所的な壁運動低下/弁膜症(AS、MR)の有無、左室圧排(D-shape)、下大静脈径と呼吸変動、心嚢液
※LVEFが40%以下でLVEFが低下した心不全、40%以上50%未満で軽度低下した心不全、50%以上で保たれた心不全に分類される。
背景にある心疾患
冠動脈疾患(OMI)、高血圧症、不整脈、弁膜症、急性心筋炎、たこつぼ型心筋症、肥大型心筋症、拡張型心筋症、サルコイドーシス、アミロイドーシス、心タンポナーデ、収縮性心膜炎、先天性心疾患、肺塞栓症、肺高血圧症など
治療
3つの軸
①後負荷を減らす→ニトログリセリンなどの血管拡張薬
②前負荷を減らす→体位・NPPV・そして利尿薬
③心拍出量を減らす→強心薬・IABPの使用
重症心不全に対するβ遮断薬(カルベジロールなど)はどうなのか。投与早期は心機能が悪化する可能性があるため、うっ血が十分とれ、血行動態が改善し、一時的に心不全が悪化しても乗り切れると踏んだら開始。長期投与により心機能が改善する。
慢性期治療としてはACE阻害薬も有効。
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利尿薬について
①ループ利尿薬
ヘンレループ上行脚に作用する最も強力な利尿薬で、尿濃縮を阻害し、またカルシウムの尿中排泄作用を有する。
フロセミド持続静注単独では血中濃度が定常状態に達するまで6〜20時間を要するため、負荷投与(ローディングドーズ)を行なっておくのが望ましい。ローディングドーズで反応尿があれば、その1/6が時間あたりの持続静注量に相当する目安となる。
②カリウム保持性利尿薬
・アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)
集合管や遠位尿細管に作用する。心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群などの二次性アルドステロン症における浮腫症例などに、ループ利尿薬など他の利尿薬と併用で用いられることが多い。スピロノラクトンは原発性アルドステロン症による二次性高血圧の治療薬でもある。また、ACE阻害薬がすでに加療されているが、まだ症状がある患者やEF<35%に対して併用を考慮する。
副作用として、高カリウム血症や女性化乳房などがある。
・トリアムテレン
アルドステロンへの拮抗作用と尿細管への直接作用により集合管のナトリウム再吸収を抑制する。
③hANP(カルペリチド)
血管拡張作用、腎血流増加作用、ナトリウム利尿作用、RAA系抑制作用、心保護左葉を有する。近位尿細管および集合管におけるナトリウムの再吸収を抑制し、ループ利尿薬による反応性を改善する。腎血流増加による腎保護作用も有している。
④バソプレシンV2受容体拮抗薬
髄質集合菅の基底膜側にあるADHのV2受容体の拮抗薬で、水と尿素の再吸収を抑制して、水の排泄を促進する。低ナトリウム血症を伴う心不全症例や、ループ利尿薬などによる初期治療に反応しない急性心不全症例に有用である。
利尿薬の効果は、作用する尿細管の部位におけるナトリウム再吸収量によって異なり、使用時は血圧・脈拍の動態に注意する。
また、利尿薬の腸管からの吸収は、腸管浮腫などの影響を受けるため、急性心不全の状態ではフロセミドは静注を用いるべきである。同じループ系でも、トラセミドは腸管からの吸収は安定している。
肝硬変やネフローゼ症候群など低アルブミン血症を伴う症例では、利尿薬の効果は減少する。
心不全患者に塩分負荷を行うと、近位尿細管におけるナトリウムの再吸収が亢進し、ループ利尿薬の効果を減ずることが知られている。これは健常人における反応と全く逆である。そのため、利尿薬を要する心不全患者では塩分制限は必須である。
その他の治療として、
重症の場合、NPPVや人工呼吸器管理、ICDといったことも考慮する
また、内服管理や塩分・水分管理、血圧や体重管理の指導も重要である